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【渡辺平日・連載】その靴いいね。どこの靴?#02

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ことのはじまり・のはじまり
SNSでの日用品や雑貨を独自の視点で紹介し、多くの支持を集めているライターの渡辺平日さん。WEBスタッフのコイデとSNS上で親交があり、コミュニケーションを重ねるなかで感じた「この人になら」という気持ちが昂まりすぎて、今回mikeyの履き心地を彼の視点で語ってもらうという連載を依頼。いよいよ履き始めの第二回。

2019/6/13

この日、〈mikey〉を撮影するために友人の家へ向かいました。おりしも季節は梅雨。(いったい、どうなることやら)と空をにらんでいましたが、なんとか持ちこたえてくれました。

お昼すぎくらいに目的地へ到着。雑談もそこそこにバッグからmikeyを取り出しました。友人が「可愛い靴だね。えっ、これ、革づくりなの?」と驚く。たしかに、一見、革靴には見えないですよね。遠目には普通の布のスニーカーのようにも思えます。

しかし、身に付けてみると、すぐに〈普通〉ではないと分かります。布靴のような気軽さがありながら、革靴ならではの頼もしさもある、実に不思議な履き心地。その理由をstructのコイデさんに尋ねると、「つま先と踵に芯が入っているからホールド力が高く、見た目、着用感ともにしっかりとした仕上がりになっているんですよ」とのこと。なるほど、その堅実な使い心地にはそんな秘密が隠されていたんですね。そんな具合ですので、カジュアルな服装にはもちろん、カッチリしたファッションにもよく馴染んでくれます。

友人に促され、その場で試し履きすることになりました。新品の靴を家のなかで履くだなんて、いったい何年ぶりかしらとつい照れ顔に。さらに友人が「すっごく似合ってるよ」なんて褒めるものだから、ますます照れる。

そのとき、ふと、(似合うを超えた奇妙な感覚がするな。馬が合うというか……)という奇妙な感慨にとらわれました。

思うに、僕と彼はどこか似ているのでしょう。僕は小さい頃から頑固で、坊っちゃんじゃないけど、子どもの時から損ばかりしています。一方で、この靴を作っているblueoverも、今どき珍しいくらいに一徹なメーカーだと聞きます。そこから生まれるプロダクトが〈素直〉なはずはないでしょう。

あるいは、僕らは共鳴しているのかもしれません。ちょっと大げさに感じられるかもしれませんが、出会うべくして出会ったような、そんな気がしました。

そんなことを考えているうちに、なんだか雲行きが怪しくなってきました。太陽が出ているうちにと慌てて撮影へ出かけることに。

アッパー(靴の外側)にはベロアを採用。アウトドアユースの際には防水スプレーを対策を。ライニング(靴の内側)には吸湿・放湿性に優れる天然皮革を使用しているので夏場でも快適。麻の靴下と一緒に履いたらかなり気持ちよかったですよ。

歩きながら友人に〈自然物と人工物〉というコンセプトで撮影してはどうかと相談しました。はじめて目にしたときから、このプロダクトに〈手づくりと機械づくりの中間〉という印象を抱いていたからです。それはいいねとなって、草の茂みやアスファルトの上で撮影をすることに。

硬めのソールを採用しているため、長時間歩いても疲れづらくなっています。町歩きにもぴったりですね。

果たして、それはとても素敵な撮影会となりました。自然物にも人工物にもよく馴染み、その魅力を存分に発揮してくれたように思います。これはまったくの偶然なのですが、コイデさんたちもほとんど同じコンセプトで撮影を行ったことがあるそうで、すこし驚きました。もしかしたら、mikeyがこっそり耳打ちして教えてくれたのかもしれませんね。言うまでもなく、〈もの〉に口はありませんが、優れたプロダクトはこういうふうに語らずして語ることがよくあります。

皮革メーカーに依頼し、その独特な色合いを表現しているそうです。手作業による部分が多いため、シーズンごとに色合いが微妙に異なりますが、それが〈手づくりと機械づくりの中間〉という印象を与えるひとつの要因になっているのかもしれません。

それにしても……。梅雨特有の重い空気のなかにあって、ブルーのスニーカーはどこまでも清々しく、颯爽とした気持ちになりました。(おしゃれは足元からというけど、本当なんだな)などと実に当たり前のことを考えるなどしました。さてさて、ようやく撮影が終わったので、明日から本格的に履いていこう。

2019/6/19

以前、ある小説家が「いいスニーカーを履くと、街の人から『それってどこの靴ですか?』とよく尋ねられるようになる」と語っていました。僕はその作家の熱心なファンですが、(嘘を書くような人ではないけど、さすがにそれはないよな)と半信半疑でした。……このスニーカーに出会うまでは。

もともと知らない人から話しかけられやすいタイプですが、街を歩いているときに「それってどこの靴ですか?」と尋ねられる機会が明らかに増えました。この日など、信号待ちをしているときに同い年くらいの男性に質問され、答えているうちに信号が赤になり、電車に乗り遅れるという悲劇に見舞われました。もちろん、ぜんぜん悪い気はしませんでしたが。

つづく……

  • 渡辺平日(Heijitsu Watanabe)
  • 日用品愛好家。美しい道具や民藝品の話題に反応して振り返ります。
  • twitter:@wtnbhijt

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